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白石 静さんに学ぶ“漢字は楽しい”

 このところの北陸や東北、北海道のすさまじい雪の降りようをTVで見ると、私は漢字学者の白川 静さんのことを思わずにはいられない。白川さんの母は、白川さんが小学校を卒え大阪に働きに出るとき、「福井の人間は厳しい冬を耐えて春を待つ。その粘り強さを忘れずに努力しなさい」と言って送り出したという。白川さんは「福井で生まれ育った歳月によって今の自分がある」と話されたそうだ。

 どのような道をたどって“現代最後の碩学”とよばれるような大学者になられたのだろう。最晩年まで、立命館大学の研究室には、夜遅くまで研究に打ち込んでいられた博士の姿があったそうだ。

 さて、白川さんの漢字学における研究で、特筆すべきは、「口」の部分が食物を摂取する「くち」ではなくて、神への祝詞を入れる「サイ」である、ということを指摘して、「口」の字形が含まれる多くの漢字を新しく体系化したことだといわれている。白川さんは、甲骨文字や金文などを綿密に調べ上げ、「口」が耳目の口や膝の皿を表すばかりではないことを突き止め、本場中国の研究者もアッと驚く成果を成し遂げられたのだった。

 さて、「口」を含む文字には枚挙にいとまがないが、たとえば「加」という字はどうかというと、左側の篇の「力」は、もともと鋤(すき)をかたどって出来た文字で、右側の旁(つくり)の「口」は神への祈りを捧げるための「サイ」を入れるための箱であったのだ。古代中国では秋口の農耕の始めに、農具にお祓いをして、豊作を祈ったのであった。よって「加」とは生産量を増加させるために、農具にお祓いを「加える」ことを意味した文字なのだ。

 また「器」はどうであろう。「器」は四つの「口」と真ん中に「大」という字で構成されているが、実はこれは祝詞を入れる箱が四つ並べられていて、間に犬がいけにえのために置かれている情景を表しているもの、だそうだ。

 だから「器」とは儀礼のときに使用される、清められた「うつわ」の意味であった。そこから器材、器械、また人の能力、人の器量の意味などに使われるようになったのだ。そしてほんとうは、犬という漢字の4画めの点が必要なのだけれど、戦後の漢字改革で点が省略されてしまい、人の正面形をあらわす「大」という字にすり替わってしまったものだという。

 白川さんはこのように、古い字形を理解しないまま、省略や変更してしまった漢字のことを無念に思われ、元の字形に改めるべきだと主張してこられたのだという。

 大学者の白川さんだけれど、大変にユーモアのあるかたで、あるとき散歩をしていて突然 杖と両手をあげて背中を反らせるので、何をしているのかと娘さんがたずねると「イナバウアー」と答えられたそうだ。そして、荒川静香さんは数分の演技で世界中の人に知られる人になったのに、自分は何十年も漢字の研究をしているのに、まだまだだなあといって、周囲を笑わせていたのだそうだ。

 福井市の白川さんの生家跡に、白川さんの大変お気に入りの漢字「遊」のもとの字形が刻まれた記念碑が建てられたという。その字形は生前、白川さんが書き残されたものだそうだ。私はまだ、福井県というところに一度も行ったことがないのだけれど、是非ぜひ行きたいものだ。それも雪がしんしんと、あるいは激しく降るころに行きたいものだ。

 

 

 

 

 

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コメント

なぎささん、おはようございます。
今、紙に《うつわ》口4つに、犬と大で・・
書いてみました。
口2つの下に、犬で哭く=なく。
左に口で右に犬で吠える=ほえる。
だなぁ~なんて、しばし、漢字のお勉強してましたよ(笑)
パソコン、携帯ばかりで、漢字忘れる、いっぽうですが・・・

投稿: ひよこ | 2013年3月22日 (金) 09時24分

ひよこ様

おーっ、なかなかするどいですね^^
哭く、は多分、いけにえのために連れられてきた
犬が、自分の運命を察知して、悲しげに哭く、と
いうことかもしれませんね。

古代中国では王が死ぬと、正装した武人と犬が墓の下に埋められたそうです。伏という字は、ニンベンと犬で出来ていますが、武人と犬が、地中の悪霊を祓うために埋められた、ということです。

土に埋めることから、「かくす、ふせる、ふす」の意味が生まれたとありました。漢字ってすごいですね^^

投稿: なぎさ | 2013年3月22日 (金) 21時22分

粘り強さと地域性の関係は納得ですわ。
はっきり言って東京で生まれ育った私なんか、粘り強さは全然ありません。
よく言えばサッパリしてるんでしょうが、地域を大切にする気持ちもなんだかボヤ~っとしてますしね。

3.11の時の東北の人達の強さと優しさには驚愕しました。
もしもあれが東京で起きたら・・・
皆自分勝手な行動ばかりするような気がしますよ。
情けないっす(。>0<。)

投稿: 便利屋 | 2013年3月23日 (土) 15時41分

便利屋さま

ほんとうに人として立派な人たちが多いですよね。
私なんか、寒いとかたまってしまって、何も
できません。寒いところでなくて良かった~~。

もっと粘り強い人間だったら、今頃ひとかどの
人間になって、ぐーたらしてないかもです。だったら
今のほうがいいかな?

投稿: なぎさ | 2013年3月24日 (日) 08時31分

白川静さんなる人の事何も知らなかったのでネットで調べてみました

最初に白石静とあったので調べたら漫画家かな?
全然違う人でした

頭が錆ついて新しい事が入っていかない
天声人語を3年も書き写してる人がいるとか、、、

介護体操等体を動かす事ばかりでなく頭も動かそうと、、、思いました

投稿: ふーちゃん | 2013年3月24日 (日) 15時57分

ふーちゃん様

大昔の人が物の姿を貝やら石やらに刻み、人の動作や、
後々には頭の中で考えていることまで文字で表現しようと
したことを思うと、人って素晴らしいなと思います。
ちなみに人という字は、人を横からみた姿から成り立って
いるそうですよ。

私もアタマが錆びつかないよう、日々トレーニングしなくては、
と思っております^^。

投稿: なぎさ | 2013年3月25日 (月) 17時23分

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